井上智洋(著)『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』を読んだ感想【BIべーシックインカムの必要性がわかる】
みなさん、こんにちは。
井上智洋(著)『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』は読まれましたか?
2016年に刊行されて以降、メディアでも多数取り上げられ、売りに売れた新書です。
井上智洋(著)『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』を読んだ感想【BIべーシックインカムの必要性がわかる】
副題こそ「2030年雇用大崩壊」という、多少煽り気味のコピーではありますが、実際の本書の内容は、けして「AIの進化で我々の仕事が根こそぎ奪われ人類滅亡」といった、俗説的なものではありません。
本書では、著者の研究のバックグラウンドとなる人工知能と経済学、この2つの関係性を主要な論点としています。
そのため、この新書1冊を読めば、
人工知能の現在(2016年時点)とこれからの可能性に至る技術的側面、そして我々が正しく恐れるべき(準備すべき)人工知能台頭による経済的インパクト、労働力が人工知能に代替される際に、BIベーシックインカムの導入が如何に人類の福音となるか、これらを体系的に、そして限りなく平易に理解することができる良書です。
今日は本書のエッセンスをご紹介します。
- 人工知能の現在と今後の可能性に係る技術的側面が理解できます
- 我々が正しく恐れるべき(準備すべき)人工知能台頭による経済的インパクトを理解できます
- 労働力が人類から人工知能に代替される際に、ベーシックインカム(BI)の導入が如何に社会保証として必要かが理解できます
- BI信者になってしまい、BIついてもっと勉強したくなります
注意)本記事では本書の要約はしていません。
技術的失業は避けられない
著者は、高度に人工知能(AI)が発達し、社会実装されるそう遠くない未来において、人間である我々が危惧すべきは、AIの叛乱や暴走ではなく、「技術的失業」であると警鐘を鳴らします。
- 経済学の用語で、新しい技術の導入がもたらす失業のこと
- テクノロジー失業とも呼ぶ
例えば「銀行にATMが導入されて、窓口係が必要なくなり職を失う」とか「音楽データのダウンロード販売によって、街角のCD販売店が廃業に追い込まれ従業員が職を失う」といった失業の類のことを指します。
これは近年に始まった話、AIに始まった話ではなく、例えば蒸気機関が誕生した第一次産業革命の時代から繰り返し生じています。
従来であれば、資本主義≒機械化経済≒イノベーションは、また新たな財やサービスを創出し、そして新たな雇用を生み出してきました
人々は職を変化させる労働移動で、技術的失業を乗り越えて来た歴史があります。
多くの事務労働、単純労働がAI、人工知能に取って代わられるであろう未来の技術的失業の際には、過去と同じように、人類の新たな雇用の受け皿は用意されるのでしょうか。
著者の見解はこれに懐疑的です。
生命の壁
AIが多くの仕事を担うようになった未来において、人類の仕事が存在するかどうかについては、研究者の意見も別れます。その原因として、我々が想像する未来のAIの進化がどのようなものか、その可能性のイメージの見定めに開きがあることが第2章を読めばわかります。
著者の考えはシンプルで、
- 2045年まで「AIが人間の知性の”大部分”を超える」可能性はある
- 「AIが人間の知性”全て”を超える」可能性はない
- 知性の「大部分を超える」と「全てを超える」では天と地ほどの差がある
- つまり特化型AIの発展はめざましい一方で、汎用AIの開発はかなり難易度が高い
かなり端折りましたが、私はこのように理解しました!
現在、すでに世の中に存在しているAIは、全て特化型人工知能(特化型AI)です。自動翻訳にしても、Siriにしても、アルファ碁にしても、人間がプログラミングを施して、それこそ無限とも思えるパターンを返すことができる、人間に対しても、その特定の領域については圧倒的に優れたAIです(ざっくり)。
一方で人間と同じように感情の起伏があって(表現できて)、状況に応じた対応ができて、空気が読めて、というのが汎用AIです。それこそターミネーターよろしく、人類vs機械の戦争というような未来は、この汎用AIを前提(or特化型AIの暴走)としたものになります。
著者は汎用AIの開発、発展には技術的に乗り越えないといけない障壁がいくつかあり、それらを総称して「生命の壁」と呼びます。言い得て妙。
- 倫理的、現実的には全脳エミュレーション < 全脳アーキテクチャ方式
- 感覚の通有性(ex.不快の通有性)がない
- 飛躍的なアイデア(将棋盤をひっくり返す)がない
- 身体感覚の獲得が難しい。全能エミュレーション達成のさらに先
この第2章を読むことで、人工知能の現在と今後の可能性に至るまでを技術的側面から理解できるので、AIが人類経済に与える影響を考える上で上手に頭を整理できます。
例えば、汎用AIを搭載したロボットが給仕を務めるレストランの店内をネズミが走り回っているとします。
〜中略〜
このような場面でロボット店員はいかなる判断を下すべきでしょうか。
ゴキブリを見つけたら叩き潰すようにとあらかじめ人間に教えられていたとしても、ネズミが走り回ることは滅多にないので、ネズミについては対処法を教えられていないかもしれません。その場合何も判断できないか、ロボット店員は、ゴキブリからの類推でネズミを叩き潰してしまうかもしれません。
『人工知能と経済の未来』(p92)
哲学者でAI研究者の西川アサキ氏は、ロボットにとって最も難しい仕事はヨガのインストラクタだと言っています。ロボットは、どのようなポーズをとったら心地良くなるのかを自分の身体に問い合わせることができないからです。
ロボットなりの心地良さの機能を組み込むこともできますが、その場合でも人間とロボットの間には身体感覚の通有性がないので、ロボットは人間に対し適切なヨガの指導を行い得ないということになります。
『人工知能と経済の未来』(p95)
AIは雇用を奪うか
その上で、あらゆる特化型AIが台頭する未来において、AIは雇用を奪うかどうか。
著者は「AIは人間にとって、局所的には補完的であっても全体的には代替的」として、従来のように人々が職を変える労働移動での対処では追いつかず、人類の雇用は大幅に減少するであろう、という見解を示します。
全人口の1割しか働かない未来 -機会に奪われにくい仕事-
著者は2045年には、内実ある仕事をして、それで食べていけるだけの収入を得られる人が1割程度しかない可能性(極端に悲観的なパターン)を主張します。
ちなみにこの未来で働いている1割の人類、その職種は「機械に奪われにくい仕事」です。
著者は、生命の壁の存在を前提とするならば、人類には不完全な汎用AI・ロボットに負けない幾つかの領域を持つとし、
- クリエイティヴィティ系(Creativity、創造性)
- マネージメント系(Management、経営・管理)
- ホスピタリティ系(Hospitality、もてなし)
著者はこれらの仕事をまとめて「CMH」と呼んでいます。
「C:クリエイティヴィティ系」は小説を書く、映画を撮る、発明する、新商品の企画を考える、研究して論文を書く、といった仕事。「M:マネージメント系」は工場・店舗・プロジェクト管理・会社経営など。「H:ホスピタリティ系」は介護士・看護師・保育・インストラクタなどの仕事です。
ただCMHに従事する人間全てが安泰という話ではもちろんなく、機械は常に人間を追い上げてくることを忘れてはいけないと、警鐘を鳴らします。
BIのあるAIはユートピアをもたらす
ところが、純粋機械化経済では、マネーストックを増やして消費需要や投資需要を増大させても、AI・ロボットなどの機械の需要が増大するばかりで、人間の労働に対する需要はほとんど増大しません。なぜなら、機会こそが生産の主力になっているからです。
例外的に、クリエイティビティやホスピタリティの面で優れた人間の仕事は増大し、彼等はひっぱりだこになるでしょう。しかし、機械との競争に負けている平均的なスキルを持った労働者の需要は増大しないのです。
『人工知能と経済の未来』(p184)
私は本書の一番の肝は第5章だと思っています。
労働力が人類から人工知能に代替され、世の労働人口が全人口の1割となった場合、仕事をAIに奪われた人々と、変わらず働く1割との富の差は大きくなる一方であり、それこそがディストピアです。
そこへの手当ては、BIベーシックインカムしかない、というのが、本書の結論です。
ベーシックインカム(BI)という社会保証制度を導入すれば、労働しなくても(AIに仕事を取って代わられたとしても)、餓えて死ぬことはありません。
なお、現在日本には、社会保障制度として「生活保護」が存在しますが、生活保護は制度として不完全なものだと著者は切り捨てます。
最近も菅総理が以下の発言をして話題になりました。
生活保護が選別主義的であるのに対し、ベーシックインカムは普遍主義的です。
要するにベーシックインカムは、子ども手当+大人手当≒「みんな手当」であり、制度として機能していない生活保護の問題点を、十分に克服することができます。
- 全国民が受給でき、取りこぼしがない
- 受給の理由(貧困の理由)を問われないので屈辱を味わうことがない
- 労働しても受給額は減額されないので労働意欲を損ねにくい
- 既存の社会保障制度が廃止でき、行政コストが大幅減
ただし、重要な補足点が一点。
ベーシックインカムは全ての人を救済するといっても、あくまでも貧困に対処するものであり、それ以上のものではないことに注意する必要があることを忘れてはいけません。
つまり、「障害」(ハンディキャップ)に分類される部分、障害者や傷病者の支援の代わりにはなり得ない、ということです。ベーシックインカムを導入した場合でも、この部分についてはこれまで通りの制度維持が必要ということは忘れないようにしましょう。
そして、財源の問題(一人あたり月7万円として100兆円)は試算上は税収でクリアできること、インフレリスクも段階的な導入によって抑制できることなど、本書を読めば多くの人がベーシックインカムの導入に賛成するのではないかと思います。
以上が本書のエッセンスとなります。
人工知能AIの技術的側面から、AIが社会に実装された際の経済インパクトとその対処法まで、体系的かつ網羅的に書かれた優れた新書ということが少しでも伝わると嬉しく思います。
本記事で『人工知能と経済の未来』に興味を持ち、読み終えた方は是非、著者が2018年に執筆した『AI時代の新・ベーシックインカム論』まで読むことを強くお勧めします。よりベーシックインカムに論点を絞った新書です。
コロナ禍における国内での一律10万円の定額給付金はある種、ベーシックインカムの試行になり得たわけですが、残念ながらマイナンバー普及不足により、コスト検証等、有意義な実証実験にはいたりませんでした。
現在、ニューヨーク市長選で公約に掲げられており、若年層の支持を集めているようです。
世界中でまずどの国、自治体が試験的にでもベーシックインカム導入に踏み切るか、要注目ですね。
それでは。